轻松读懂日语经典作品
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あなたもわたしも
あなたも私も
久生 十蘭
「毎日新聞」1954(昭和29)年10月29日~1955(昭和30)年3月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,405 字 · 263 页
十月はじめの長雨で、湿気のしみ通った化粧箱が、棚の中段にチョコンと載っている。外套掛けには、袖口のすりきれた薄地のコートが、仕留められたケモノの皮のように、あわれなようすでグッタリとつるさがっている。間代のカタに、持物をおさえられてしまったので、身につくものといえば、上と下が色のちがう古ぼけたセパレーツと、コートと化粧箱だけ。
夏の終りに、秋川の家で受けた心のこもったもてなしのことを、フト思いだす。
「あの約束も、まだ果していない……」
東京へ帰ったら、いちど秋川をたずねると、愛一郎と約束をしたが、こんなようすになりはてては、とても出かけて行く気にはなれない。みじめになって、心が傷つくだけのことだから。
霧がうごき、上げ潮の黒い水の色があらわれだしてくる。ポンポン蒸気が、待っていたように、窓の下の掘割へあがってきた。
しばらく怠けていたが、きょうからまた都会の雑踏のなかで、無慈悲な肱や拳で突きまくられながら、職安を回って仕事を捜して歩かなくてはならない。
「仕事が無かったら、今夜は、どこで寝るのかしら」
秋ざれの寒むざむしい町のなかを、宿るあてもなく歩きまわるのは辛いことだが、友だちというのでもない大矢シヅの世話になっているより、よほどサッパリする。