轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
あなたもわたしも
あなたも私も
久生 十蘭
「毎日新聞」1954(昭和29)年10月29日~1955(昭和30)年3月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,405 字 · 263 页
そんなサト子にも、どきっとするような思い出がないわけではない。
青梅の奥で、キャベツ、蕪、トマト、胡瓜など、日本人向きの清浄野菜をつくっている坂田という青年が、中野の市場まで荷を出しに行った帰り、サト子が離屋を借りている植木屋の門の前で牛車をとめ、自動車がクラークションを鳴らすように、牛の首を叩いて、モーと啼かせる。芯まで焼けとおったような黒い顔を、汗だらけにしてはいってきて、サト子の部屋の縁に腰をかけ、一時間ほどおしゃべりをして行く。
門の前で、重々しく長啼きする、牛の声を待っている楽しさといったらなかった。大地から掘りだした木の根っこのような無愛想な青年だが、すこしでも美しく見せたい、よく思われたいというので、仕事にも張りあいができ、いろいろと欲をかいたおぼえがある。
「それから秋川氏……」
秋川というひとを好きなのかどうか、よくわからないが、さほどでもない服を、しみじみとほめてくれたので、うんと稼いで、恰好のついたドレスの一枚もつくって、秋川に見てもらいたいと思ったこともあった。
こんな、す枯れたような女になってしまったのは、愛したいひとも愛されたいひともなくて、あまり長いあいだ一人で暮していたからかもしれない。