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あなたもわたしも

あなたも私も

久生 十蘭

「毎日新聞」1954(昭和29)年10月29日~1955(昭和30)年3月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,405 字 · 263 页

青空文庫

ごぞんじ?」

「そう、きれいな方がいられたようだ」

「あたしの想像だけど、愛一郎、なぜ、あの家へはいりこんだのか、わかるみたいね」

中村は考えてから、同意するようにうなずいた。

「ひょっとすると、そういうことだったのかもしれない。それにしては、思いきったことをやるもんだ。このごろの若い連中の性情は、われわれには、わからなくなりかけているらしい」

「かりに、そうだとすると、警察へ行って、愛していたの、好きだったのと、そんな話まで、しなくてはならないんですの」

「なんであろうと、隠すのはためにならない……正午までは、支局の連中や通信員がウロウロしていますから、一時から二時くらいまでの間に、捜査主任のところへ……」

玄関の横手の車庫から、愛一郎と山岸カオルの乗った車が走りだし、飛ぶように前の坂道を下って行った。

中村は、じっと車のあとを見送ってから、

「逃がしたんじゃ、ないだろうね」

と、強い目つきで、サト子のほうへ振り返った。

「どうか、そんなことにならないように……むずかしくなるよ」

サト子は腹をたてて、やりかえした。

「それほど、バカではないつもりよ」

「愛一郎のとなりにいた女性は、新兵器の売込みをしたり、日本のウラニウム鉱山の調査をしたりしている、パーマーというドイツ人の秘書だが、あなた、ご昵懇なんですか」