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あめんちあ
あめんちあ
富ノ沢 麟太郎
「改造」1911(明治44)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,594 字 · 83 页
彼自身の気持は晴々と澄んでいた。
この時、突然のことのように、彼は戸外に雨の降る音を耳にした。
雨滴をきいて一段と彼は安心した。
そうして何心なくしかも自然であるかのように呟いた。
「これですっかり、足蹟は消えるぞ!」
そうして彼は再び不安な気持ちに捉われた、それと同時にいまの言葉で盛りかえされたかのように悪い連想はまたしても生き生きと尾を振りはじめた。
それに巣を離れて活動している梟は、墓地の森のなかでしきりに鳴きはじめた。
「あいつがおれの思うこと一切を世間へ告げ散らしている、あの兇鳥が……あいつはおれの臆病な敵の間諜だ……」彼にはまたしてもこの電流のようにすばやい閃きが憫れにも感じられて来た。
そうして緊張は一秒一秒に増してくる。
彼は自分の最後の頼りになる唯一の親友のところへ行けばいいのであると考えに逐われていた。
それは精神的の悦びのように彼自身の躯のなかを馳け巡った。
いま彼は自分の名誉を毀損されるというような安易な不幸に陥ろうとしているのではない。
それは彼が彼自身の身をもって当らなければならないほどの不幸である。
こういうふうに彼が考えれば、彼は自分の親友のところへ行くことを断念しなければならないようになった。