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あめんちあ

あめんちあ

富ノ沢 麟太郎

「改造」1911(明治44)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,594 字 · 83 页

青空文庫

そうしていまは彼自身の迫害者さえこの非道に似た一種の犯罪を嗅ぎつけなかったと思えば、彼には何とも言えない無思慮の愉快感が感じられた。

その翌日、彼はわきめもふらずに、町の昼の雑沓をその中心から遠退いた。

そうして彼がM――銀行で用を達してから約一時間は経過していた。

――

彼の債権者は彼へ笑いかけて挨拶した。

彼は口を噤んで、眼球を風車のように動かした。

しかしその時、彼のポケットには、一日の煙草銭さえなくなっていた。

そうして彼の貧しい札にありつけなかった債権者の一部の者は、彼の顔を煩く覗き込んだので、彼は一こと物を言わなければならなかった。

「三日後にするのだね、ではこの次に……いまは仕方がないのだから……」

彼がそれらの債鬼へこう言ったその三日目の前日は、彼が親友青沼の家へ移転する日であった。

*

冷かな風はすばやい忍び足をして、青い空を横切って行った。

彼はこんな天候の対照でさえ自分の胸のなかが冷たくなって行くように感じた。

彼は靴音のような喜びと驚きと怖れとの雑った一種の苦しみで、彼の母親から送られた手紙を読んでいた。

彼女は明日にでも上京して来るようなことを書いて寄越した。