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あめんちあ

あめんちあ

富ノ沢 麟太郎

「改造」1911(明治44)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,594 字 · 83 页

青空文庫

こう考えると、彼は自分を嘲弄した自分の敵のように、彼自身を嘲弄してみたくなった。

しかし彼は真面目に考えてみなければならなかった――あの蒼ざめていじけきった醜い男は、一たい何者であったろうか。

彼自身の敵であったろうか。

しかしどうみたところで、あの男は彼自身によく酷似していた。

それならあの男は、彼自分のドッペルゲンゲルであったろうか。

それにしても、彼は現在離魂病をわずらっているであろうか。

兎も角、あの男は、一たい何の目的で、あの場へ現れたのであろうか。

彼を苦しめるためにか。

小児を殺す目的であの場へ現れ、その罪を彼へなすりつけるためにか。

それならそれは彼の敵の仕業であるに違いない。

――こう考えながらも、彼は彼女の後へついて、彼女の家まで行った。

彼女の家は、彼の夢とは多少の相違があったにしても――そこは屑物屋ではなかったが――略相似た様子だった。

玄関のない出入口を持っていた。

彼女は彼が無断で他人の家へ近づくのを咎めはしなかった。

彼女は彼を振り返ってみた。

うちみたところその顔は、十七八にも見えたが、その眸ざしは小児らしく悲しそうに見えた。

そうしてその飾りけのない眸は、見栄えはしなかったが、どことなく気品のある彼女の顔につりあっていた。