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あめんちあ

あめんちあ

富ノ沢 麟太郎

「改造」1911(明治44)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,594 字 · 83 页

青空文庫

そうして彼には、その死というものが一種の生物で、しかも死自身はまさしく殺生鬼であると思えた。

この殺生鬼は、空想から現実へ、足音もなく忍び寄ってくる。

この死は、大股に濶歩して、あらゆるところを歩き廻る。

死を背負うた人間。

この殺生鬼は、彼の胸のなかへ、真昼の幽霊のように、姿もなく巣食うてしまった。

「死を珍客として歓待する者が、この世に幾人あるか。

」

彼は底知れない神秘な真実に逐いまくられて、不意にこんなことを呟いた。

彼は思うさま、自分の声を揺って笑ってみようと決心したのであった。

――この瞬間、何ものかの啜泣く響が、彼の耳もとをとぎれとぎれに過ぎていた。

そうして屋外は恐らく雪が降っているのであろう、さらさら、さらさらと軽いこまかい音がしている。

どっしりした空気その物の重みのような淋しい沈黙が、彼の体全体で感じられた。

軽く緻かに雪が降っているのであろう。

そうしてそのなかをとぎれとぎれの啜泣が伴奏している。

彼は耳をそばたてた。

ものの十秒とも経たないうちにその啜泣は波打つ歔欷と変った。

――慟哭の早瀬となった。

――

「お柳……?」

彼は自分の声でびっくりした。

「お柳が泣いている……おれに部屋を借してくれたお柳が泣いている……」