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あめんちあ

あめんちあ

富ノ沢 麟太郎

「改造」1911(明治44)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,594 字 · 83 页

青空文庫

「で……」

彼は不機嫌な顔を擡げた。

青沼はすぐ彼の言葉を受けついだ。

「で、君は明日にでも博士に会ってみ給え。

」

親友はこう言って、地図の略図面を書いた紙片を残して帰った。

*

彼は記憶に浮いてこない町の片隅で、軽い溜息を吐いていた。

彼は目には見えないものを※めているようであった。

彼は悲み且つ喜び、泣き、笑っていたのではない。

港町のように綺麗でしかも非常に混雑しているその町の片隅で、彼は煙草をゆっくりと喫んでいた。

その時は夕方と夜との境であった。

鮮かな紺色の空気のなかにはいろいろの光が隠されてあった。

彼はその光景にみいっていた。

一たい何を眺めているのかと訊ねられたところで、彼はその時即座に応えられはしなかったであろう。

その日彼は自分の書物を二冊売り払った。

その金で、彼は二杯のコーヒーと一皿の菓子と夕飯を食べた。

彼は愉快であった。

彼は清新な気分を味った。

そうしてその翌日も、その次の日も……彼は自分の書物を二冊ずつ売り払った。

――そうして彼はこの生活を出来るだけ永く続けようと決心した。

彼には新らしい感興が湧きはじめた。

彼は生活するということを感じはじめた。