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あるこうぎしょ

ある抗議書

菊池 寛

「中央公論」中央公論社、1919(大正8)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,272 字 · 34 页

青空文庫

私は国家の善良な臣民として其事を、要求する権利があると思います。刑罰の効果が、宗教的感化に依って薄弱となっては堪らないと思います。世の中に『死ぬ者貧乏』と云う諺があります。坂下鶴吉の殺した人達は、私の知る限りでは、国家の良民であります。然るに、被害者なり被害者の遺族なりが国家の手に依って毫頭慰藉を受けて居ないのにも拘らず悪人でも、坂下鶴吉の如き悪人でも生きて居る者には、宣教師との接見を許し、その改宗を奨励し、死刑の精神上に及ぼす効果を緩和してやると云うことは甚だ不当な片手落なことだと考えずには居られません。坂下鶴吉はその告白の中に、こんな事を申して居ります。『私は今日では、有難い事には主イエスキリストの御慈愛に依りてこの身も心も共に救われた為に、今日の監獄生活は他の在監者が日々夜々煩悶に苦痛を重ねて、心の中では男泣きに涙を滾して居りますが、私はそれと反対で日々夜々何一つの不安をも感ぜず、喜ばるるばかりでございます。これと申しますのも、嚢に申しました通り、他人様から御覧下されば、何も有せざるに似たれどもすべての物を有するのでございまする。そこで私達が造った品物や金銭は使えば無くなりますに依って、限りがありますが、神様から私は頂きましたすべての物がありますから、如何程沢山に使いましても、それは無くなると云う