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あるひのけいけん

ある日の経験

寺田 寅彦

「明星」1921(大正10)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,946 字 · 10 页

青空文庫

少し短くつまった顔の特殊なポオズも、少しも殊更らしくなくてただ気高いような好い心持がするばかりである。何かしら人の子ではなくて何かの菩薩のような気がする。

日本人としての自分にはベラスケズのインファンタ、マリア、マルゲリタよりもこの方がいい。デュラアよりもホルバインよりもこの方がいい。

専門家に云わせると、あるいは右の頬の色が落着かないとか、手が小さ過ぎるとか、色々の批評があるかもしれないが、私にはそんな事は問題にならない。何かなしにこれが本当の芸術というものだろうという気がする。

会場を出て、再び天幕張りの工事を仰ぎ見ながらこんな事を考えた。間に合せものばかりのこの竹の台に、あの童女像ばかりはどうも間に合せでない。時代や流行とは無関係に永遠に伝えらるべき性質のものではないだろうか。

谷中から駒込までぶらぶら歩いて帰る道すがら、八百屋の店先の果物や野菜などの美しい色が今日はいつもよりは特別に眼についた。骨董屋の店先にある陶器の光沢にもつい心を引かれて足をとめた。

とある店の棚の上に支那製らしい壷のようなものがいくつか並んでいるのをしばらく立止って眺めていた。