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いのちのしょや
いのちの初夜
北条 民雄
北条民雄『いのちの初夜』。同一底本的分册已合并为一书。收入:いのちの初夜、眼帯記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,366 字 · 63 页
何か眼のさきに払っても払っても無くならない黒い幕のようなものが垂れ下がって、絶えず眼界を邪魔しているような感じがしてならないのだ。すると暑くもないのに体中にじりじり汗が出て頭に血が上り、腹が立って来て一日に十度も十一度も眼帯をむしり取る。むしり取るたびに強い光線がはいり、瞼の下が痛むので、いけない、と自分を叱ってまた掛けるのだった。あたりがなんとなく暗がっているように感じられて、明るい真昼間でありながら、なんとなく夜のような気がする。今はたしかに明るい昼だ、しかし、はたしてほんとにこれが昼だろうか、これが光のある昼だろうか、これは夜ではないだろうか、これがほんとに昼だとしたら、夜というものはどこにあるのだろう、昼と夜とを区別して考える人間の習慣ははたして真実のものだろうか、夜というものは、この明るい何でも見える昼の底に沈んで同時にあるのではあるまいか……そんなことを考えたりするのだった。
が、何よりも困ったのは見当の外れることだった。例えば湯呑にお茶をついだりする場合きっと畳にこぼした。自分ではちゃんと見当をつけてついでいる気でいながら、実は外れていて湯呑の外へ流しているのである。