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いのちのしょや
いのちの初夜
北条 民雄
北条民雄『いのちの初夜』。同一底本的分册已合并为一书。收入:いのちの初夜、眼帯記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,366 字 · 63 页
その心地良さの中にはいい様のない侘(わび)しさが潜んでいる。癩になって、こうした病院へはいり、この若さのままいっさいを、投げ捨てて生きて行かねばならない、そうした自分の運命感が、その心地良さの底深く流れているためである。
私はふとこういうことを思い出した。それは私が入院してからまだ二、三ヶ月にしかならないころだった。もう夕方近く、私は同室の者に連れられて初めて女舎へ遊びに行ったのである。それは女の不自由舎であったが、その舎はかなり古い家だったので、部屋の中はひどい薄暗さで、天井は黒ずみ、畳は赤茶けた色で湿気(しけ)ていた。私はまだこの病院に慣れていなかったので、部屋の中へはいるのがなんとなく恐怖されるのだった。暗い穴蔵の中へでもはいって行くような感じがしてならないのである。が慣れきった友人がどんどんはいってしまったので、私も後についてはいった。私たちは若い附添婦にお茶をすすめられて呑んだ。
そのうち、附添婦の一人が――この部屋には二人いた、たいてい一部屋一人であるが――廊下から蓙(ござ)を一枚抱えて来て畳の上に拡げた。どうするのかと、好奇心を動かせながら眺めていると私が今使っているのと同じ罨法鍋がその蓙の上に六箇、片側に三つずつ二列に並べられるのであった。