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いのちのしょや

いのちの初夜

北条 民雄

北条民雄『いのちの初夜』。同一底本的分册已合并为一书。收入:いのちの初夜、眼帯記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,366 字 · 63 页

青空文庫

「おい、煮え湯が霧にならないで、かたまったまま飛び出してくるようなことはないかい。気味が悪いなあ」

「そりや、無いとはいえんよ。そうなったら盲目になりゃいいさ」

「おいおい、ほんとか」

笑っているので、私は安心して霧の中に貌をつっ込んだ。

「はははは。鼻にばかり霧は吹きつけてるじゃないか、そうそう、もうちょっと下だ、よし。眼を開けてなきゃ駄目だ、そう、かっと開けてるんだ、目玉を少々動かして――」

私は彼のいうとおりにし、思いきって眼を開き、目玉を動かせた。貌一面に吹きつけて来る噴霧は、冷えびえとした感触で皮膚を柔らげ、鼻の先からはぽつんぽつんと雫(しずく)がしたたり、顎の下へ流れ込んだ。良い気持だった。すると彼は急に腹をかかえて笑い出した。なんだい、と訊(き)くと、

「うははは。なんだいそのだらしのない恰好は。水っ鼻を垂(た)らして、涎(よだれ)をだらだら垂らして、うはははまるで泣きべそかいた子供より見っともないぞ」

「ちえ。俺は良い気持さ」

やがて適量の硼酸水を終わると、私は手拭(てぬぐい)で貌を拭(ふ)いた。さっぱりとした気持だ。四、五日こうしたことを続けているうち、私の充血はすっかり消えた。