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いわゆるしぜんのびとしぜんのあい

いわゆる自然の美と自然の愛

丘 浅次郎

「時代思潮」1905(明治38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,029 字 · 16 页

青空文庫

また一方には動物学や植物学を修めて一々の動植物を精密に調べると、あまり非詩的になって自然を漠然と眺めている者に比べると、はるかにその美に感ずる力が鈍くなり、いかなる自然の美に触れても心の琴の緒が振動せぬようになると説く人もあるが、これもけっしてさような理由はない。桜は顕花植物中の双子葉類に属するもので、その花は花粉の伝播のために昆虫を呼び寄せる装置であると知っても、桜花の咲き揃うたのを見て美しいと感ずることはそのために少しも減ぜぬ。また蝶は昆虫類の中の鱗翅類に属しその吻は左右の小顎が延びてできたものであると承知しても、菜の花に遊ぶ蝶を見て愉快に思う情はそのために毫も変らぬ。靨は顔面の某筋肉と某筋肉との空隙へ空気の圧力により皮膚が陥入ったもの、腰部の形好く丸みを帯びて柔いのは皮下の結締組織に脂肪が堆ったゆえと承知している医学生らも美人を見ればやはり美人に見えるとおり、およそ美なるものを見て美と感じ醜なるものを見て醜と感ずることは、その物に関する知識の多少とはあまり直接の関係はないように思われる。

そもそも美と醜とは何によって定めるかというに、その標準はけっしていつでもどこでも同一であるわけではなく、人種により古今により実に種々の相違がある。