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うすゆきしょう
うすゆき抄
久生 十蘭
「オール讀物」1952(昭和27)年1月号~3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,454 字 · 59 页
かんじんの二人の子供のほうは、毎年、年のはじめに歳徳神の居どころを探し、今年の恵方は北だといえば、人を附けて北へ預け、南だといえば南へ送り、疲れを知らぬ奮闘をつづけていた。京都の尼寺へ預けておいた行子を急に小田原へ呼びかえすことにしたのは、その夏から金神の遊行が西方へまわるのを忌んだためだが、なおそのほか、かねて築造にかかっていた山邸が、この夏ようやく落成したからでもあった。
道益はやがて来る行子の十九の厄年を、どうして事なく越させようかと悩んでいた。災いはかならず起るときまっている。どんな恰好でやってくるかわからないが、内から起るより外から来る可能性のほうが多いから、まずそのほうの道を切るにかぎると、小田原の裏山、谷津のなぞえに砦のような三層の邸第を造営し、風にもあてずに楼閣のてっぺんに囲っておくことにした。前は谷津の谷にのぞむ急斜面、上は山に囲まれた深い谷戸、山曲にわずかばかりの瘠せ田があるが、五年ほど前から人が住まなくなり、荒れたままになっているという、いかにも取詰めた場所である。山邸のあるところは、府中の町端まで見晴す絶好の高台で、どんな人間が上ってくるか、十町先からはっきりと見分けられる。