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うすゆきしょう
うすゆき抄
久生 十蘭
「オール讀物」1952(昭和27)年1月号~3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,454 字 · 59 页
で、生毛もとれぬ稚顔の頬に煙草の煙をまつわらせながら、
「いまのお話ですが、長者の心、下司知らずとは、なるほどよく言ったもの。妹のやつの気位の高いのには、この日頃、私も閉口しているのですが、じつは一と月ほど前、こんなことがあったのです」
と脂っこい口調で語りだした。
道長という小伜の向う見ずと智慧の足らなさ加減には、これまでにもたびたび手を焼いている。こんどはどんな風癲をやらかしたかとおどろき、
「や、また、なにをやった」
とたずねると、道長はこんな話をした。一と月ほど前、妹が沈んだ顔で、この頃嫌な夢ばかり見るので、日暮れになるのが恐ろしい。夢というのはこんな夢である。菊燈台に南蛮蝋燭を立てならべ、灯の下で本を読んでいると、邸裏の木の間から、鈍色の小狩衣に、悪魔の面を鋳出した南蛮頬をつけた男が忍びだしてきて、夜霧のようにぼーっと池の汀に立つ。すると、このわたしが三階から走りだし、ひかれるようにそのそばへ寄って行く。なにか儚く、もの悲しく、そのまま陰府へでもひきこまれるような気持がする。どういうわけで、こんな夢を見るようになったのかと考えてみると、これは原因がある。