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うすゆきしょう
うすゆき抄
久生 十蘭
「オール讀物」1952(昭和27)年1月号~3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,454 字 · 59 页
そういう威毛のついた顔ばかり見馴れてきた眼には、汚れのない玉のようなツルリとした顔は、あまり突飛で異なものだったが、だんだん見ているうちに、なるほどこういう美しさもあるものだと納得した。このごろ、近畿の大名や寺院の長老が稚児を集めて珍重しているが、そこにいる男性の顔は、髷を二つ折にし、歯を黒く染めたありふれた美童の面ではない。威儀正しい気品のある凛々しさがあふれ、古画に見る上代の旧上達部が、なにかの都合でこの世にたちかえってきたかと思われるほどであった。
大炊介の見た行子は、稚気離れのしない、咲きたての花のような面差しをした愛々しい女性で、生まれてからまだただの一度もこの世の不幸に逢ったことがなく、この世で思いのままにならぬものはないという、驕るかにも見える寛濶な表情をしていた。
女性は顔をまわしてゆったりと川面や遠い河岸を眺めているが、どんなことにも興味と満足を感じる豊かな気質らしく、表情のなかにたえず微笑の波をたちあげるので、顔自体が生きているかと思われるほどである。なかでも溌剌と動いてやまぬのは、底知れぬ愛嬌をたたえた二つの眼で、こちらへ眼差をかえすごとに、しきりに大炊介に語りかけるのだが、なにを言おうというのか、大炊介にはついぞわからずにしまった。