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うすゆきしょう

うすゆき抄

久生 十蘭

「オール讀物」1952(昭和27)年1月号~3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,454 字 · 59 页

青空文庫

逢う退引ならぬ関係になっていたのである。

良縁結ばず、悪縁は至極疏通すという言葉があるが、このときの作用はだいたいそれに近いものであった。大炊介にしても、行子にしても、予定どおりに行動し、即興的な試みをしなかったら、おなじ渡し舟に乗りあわすようなことは絶対になかったはずだからである。足利学校の学頭をつとめた七世九華は六十一歳になったので、暇をもらって郷里の伊豆山へ帰ることになった。大炊介が、廃学する気になったのもそのせいだったが、老師を松原の渡しまで送ったところで、別れるに耐えられなくなり、その舟に乗って向岸まで渡り越してしまった。行子のほうの因縁のカセは、沼津あたりからはじまっている。父の道益は行子に箱根路を越させるのをいとしがり、沼津の浜まで迎いの船をやったが、真鶴岬をかわしたところで、行子は片浜から岸づたいに歩いて行くといいだし、急に船から降りてしまったのである。偶然と言捨ててしまえばそれだけのことだが、二人の上に眼に見えぬ操りの糸のようなものがからみついていて、どうでもそうなるようにひき寄せたのだと思えなくもない。

これで物語の筋を運ぶ段になるのだが、その前に、あわれな終末をつくりだした二人の境界を説明しておかなくてはならない。