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おさん
おさん
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1961(昭和36)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,128 字 · 66 页
自分は浅草駒形の「大平」に住込んでいるが、とあって終りに、おさんのことが書いてあったのだ。京橋二丁目に普請場があり、かよい仕事にいっていたとき、おさんの姿を認めたので、跟けていってみると炭屋河岸の裏長屋へはいった。近所でそれとなく訊いたところ、作次という男といっしょだとわかった。男はすぐ近くの大鋸町に妻子があり、どこかの料理茶屋の板前だそうだが、どうやらくらしは楽ではないようにみえた。よけいなことかもしれないが、辰あにいとのことは知っていると思う。辰あにいとはすぐ別れて、そのあと続けざまに幾人か男をつくったらしい。さかな町の家を出てからのことは知らないが、こんどの作次という男とも長いことはないだろう。参太あにいはいいときに別れたと思う、そういうように書いてあった。おれの気持はぐらつきだした。みれんは少しもないが、おさんが哀れに思えてきた。自分が上方へ来たのは、厄のがれをしたようなもので、その代りにおさんが独りで厄を背負った、というふうな感じがし始めたのだ。江戸が恋しいのと、おさんをどうかしてやりたいという気持が、結局こうしておれを帰すことになった。