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おさん

おさん

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1961(昭和36)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,128 字 · 66 页

青空文庫

「荷物が預けてあるんだ」

「女の人が待ってるんだね」

「いやあしない、あれとは今朝いっしょに出て別れたよ」

ほんとかい。本当だ。またいっしょになるんだろう。どうして、と参太が訊いた。だってそんな気がするもの、あの女はくっ付いてはなれねえと思うな、と子供は云った。

「そんなことが気になるのか」

「おれは女が嫌いだって云ったじゃねえか」

「だからどうだっていうんだ」

子供は暫く黙って歩いた。そして、よく考えていたというような口ぶりで、恥ずかしそうに云った。

「おれもね、もしなんだったら、ねえ」

だが参太はもう聞いていなかった。

作次のところから出ていったとすると、おさんを捜す手掛りはないと思った。しかしそうではない、作次はきちがいのようになって二人を捜しまわったという。それから仕事もせずに酒びたり、ついには長屋へも帰って来ず、魚河岸で軽子のようなことをしているということだ。ことによると、作次はおさんのいどころを知っているかもしれない。そうだ、捜し当てたとみるほうが筋がとおる、二人のいどころを突止めたが、おさんを伴れ戻す望みはなかった。それですっかりぐれだした。おそらくそんなところだろう、とにかく作次に当ってみることだ、と参太は思った。