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おじさんのはなし
おじさんの話
小山 清
「新潮 第五十巻七号」新潮社、1953(昭和28)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,232 字 · 42 页
「おじさん、いまごろ、どうしているだろうなあ。」
私達は店の板の間で、朝刊や夕刊をそろえながら、よくおじさんの噂話をした。同じ屋根の下に寝起きをし、同じ釜の飯を食っている者同士の親しみが誰の心にもあった。
おじさんが釈放された日には、私が迎えに行った。おじさんは元気で、そんなに窶れても、汚れてもいなかった。警察署を出てから、私達は水天宮の近くの蕎麦屋に寄った。
「ここの蕎麦はうまいよ。おれはいつもここで食べるんだよ。」
とおじさんは云った。おじさんは面目ながって、もう店へは帰れないと気の弱いことを云った。
「諸君に迷惑をかけた。」
「なにも気にすることはないさ。運が悪かっただけじゃないか。紙分けはやっぱりおじさんでないと駄目だ。」
朝刊の紙分けで、私はいちど大間違いをしでかして、朋輩から文句を云われた。
「主任がしてくれていたのか。」
「いや、おれがやっていた。」
「それはすまなかったね。」
おじさんは私にさきに帰ってくれ、自分は夕方帰る、昼間はどうもきまりが悪いからと、連れ立って帰ることをしぶったが、私はおじさんがひょっと弱気を出して、このまま店へ帰らなくなるような不安な気もしたので、性急におじさんを連れて帰ろうとした。