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おじさんのはなし
おじさんの話
小山 清
「新潮 第五十巻七号」新潮社、1953(昭和28)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,232 字 · 42 页
「おじさん、きょうはノー・カードだよ。」
と云うと、おじさんも目に見えてしょんぼりした顔になって、
「そうですか。」と元気のない声で、丁寧な口をきいた。またときには、その日の勧誘が徒労に終ってがっかりして帰ってきた私達の目の前に、おじさんの方から、
「へえ、申込みだよ。」
と云って、カードを出してくれることもあった。それはお得意の方から、わざわざ店に購読の申込みにきたものであった。私達の店では、申込みの分もその区域の配達の所得になり、自分が勧誘したものと同じように、私達はカード料にありつけたのであった。
おじさんの仕事はそのほかには、毎月区域別に新しい定数台帳を作製することと、領収証の綴込をやはり区域の数だけこしらえることであった。おじさんは定数台帳を作製するのに新聞の折込広告を利用した。方々の商店や飲食店などから持ち込んでくる広告ビラの中から、それぞれその幾分かをとり除けて置いて、毎月の定数台帳の材料にした。これはどこの店でもやっていることであった。広告ビラというものは大抵大きさが一定している。その中の広告文の印刷してない、裏側の方が真白な紙をえらんで、裏側を表に二つ折りにしたやつを三拾枚なり四拾枚なりまとめて綴じると、定数台帳が一冊分出来上るのである。