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おじさんのはなし
おじさんの話
小山 清
「新潮 第五十巻七号」新潮社、1953(昭和28)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,232 字 · 42 页
ひとつはおじさんが自分から進んで証券書きを引き受けてくれたから。証券の方は定数台帳と違って、先に購読者の名前を記入してから綴込むのだったから、記入の方がすまないと、いつまでも領収証をまとめることが出来ないわけであった。そして領収証がまとまらないと、集金の方が自然おくれるわけであった。おじさんは本社から夕刊を包装して送ってくる紙でカバーをつくって、領収証を綴込んでいた。
おじさんはだいたい勝負事の好きなたちなのだろう。碁や将棋なども強かった。店でおじさんの右に出るものはいなかった。竜泉寺町の都電の停留場の際にミルク・ホールがあって、そこの親爺が将棋好きなところから、そこには将棋の盤がいくつか置いてあって、近所の閑人たちが寄ってきては勝負をあらそっていた。おじさんも一時通っていた。けれども、それも一時のことであった。おじさんは大抵夜は早く寝てしまった。私達は皆んな夜更しの習慣がついていたが、おじさんだけは、ひとつは朝早く起きなければならないせいもあろうが、八時ごろにはひとりさっさと寝てしまった。おじさんは煙草はまるでやらず、酒はすこしは呑んだが、それもなにかの折りに店の者たちと一緒に呑むだけで、自分から呑み屋へ出かけて行って、ほろ酔い機嫌で帰ってくるというようなことなどはなかった。