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おじさんのはなし
おじさんの話
小山 清
「新潮 第五十巻七号」新潮社、1953(昭和28)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,232 字 · 42 页
おじさんが分けてくれた新聞を、私たち配達はそれぞれ肩紐でしょい込んで、配達に出かけていくのであった。
冬の朝などでも、おじさんは暗いうちから起き出して、通りに面した窓際にある事務机の前に頑張っている。本社から廻ってくる輸送のトラックが店の前に横づけされるのを待機しているのである。ジャンパーの上に汚れた袍を羽織って、脹雀のように着ぶくれたその恰好には、乞食の親方のような貫禄がある。向う鉢巻で、机の上に頬杖をついて、こっくり、こっくりしていることもある。
どうかしておじさんが寝過ごしていると、トラックから、
「竜泉寺、竜泉寺。」
と呼ぶのが聞える。おじさんは「おう。」というような寝呆け声を出して跳ね起き、それからパタン、パタンというゴム裏草履の音をさせて梯子段を下りていく。私たち配達はそれを夢うつつで聞きながら、またひとしきり眠りを貪るのである。紙分けの途中で、おじさんが梯子段の口に顔を出して、
「おう。諸君、紙が来たぞ。起きよ。起きよ。」
と声を掛ける。けれども、それで起きる奴などはいない。私達がそれでも一人、二人と不承不承のように起き出して配達に出かけていくのは、おじさんが紙分けをすまして、また自分の寝床にもぐり込む頃なのである。