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おじさんのはなし

おじさんの話

小山 清

「新潮 第五十巻七号」新潮社、1953(昭和28)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,232 字 · 42 页

青空文庫

そういう行列の中には生ビール一杯呑むだけではおさまらなくて、呑まない連中に頼み込んで並んでもらい、券を余分に手に入れようとしている呑み手がいたのである。私が行列に並んでいると、その男がそばに寄ってきてそっと耳うちをした。

「券をもらったらおれに渡してくれよ。お父さんともう話がすんでいるんだから。」

そう云ってその男は、私の三人ばかり前の方に並んでいるおじさんの姿を頤でしゃくってみせた。私をおじさんの息子のように思ったらしかった。取引がすむと、おじさんはもう一ぺん行列に並ぶから、私に先へ店へ帰って待っているように云った。店で待っていると、やがておじさんは帰ってきて、私に最前の分前をくれた。

終戦になってから私は工場をやめたときにもらった退職金でしばらくは暮らした。そのうちそれもなくなった。友人も疎開先から戻ってきて、留守番の必要もなくなったので、私はふとその気になって、北海道の炭坑へ行った。私はおじさんにいとま乞いもしないで北海道へ行ってしまった。その前に私はおじさんを騙すようなことをしていたので、つい行きにくく足が遠くなっていたのである。おじさんが持っていたビール二本を金に換えてやると云って、持って行ってそのまま猫ばばをきめ込んでしまったのである。