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おじさんのはなし
おじさんの話
小山 清
「新潮 第五十巻七号」新潮社、1953(昭和28)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,232 字 · 42 页
」
礼次郎というのはおじさんの名前である。かつて総理大臣をした人に、おじさんと同じ名前の人がいたように思う。いまなお矍鑠としているおじさんに対して、あらかじめ死後のことを懸念するというわけのものではない。
国にいたときおじさんはなにをしていたか、それはつい聞いていない。身の上話などはあまりしない人だが、いちどかつておかみさんだった人のことを、「怪しからぬことがあったから。」と云ったことがある。よくはわからぬが、国を飛び出したのも、そんなことが原因のようである。
私達が女の話をはじめても、それに加わるようなことはまずなかった。おじさんと一緒に道を歩いていて、通りすがりの女のことを、私が、
「悪くないじゃないか。」
と云ったら、おじさんは顔を背けて、苦々しそうに唾を吐いた。
「おじさんはなかなか好男子だから、若いときはもてただろうなあ。」
と私達が冗談を云えば、
「おう、もてたもんだよ。」
と他意なく笑った。
それにしても、おじさんは、国を出てから三十年にもなるわけであった。
おじさんは矍鑠としていた。病気をして寝込むなんてことも殆どなかった。それでも戦争の終る頃には、神経痛が出て歩行困難になり、よそめにもめっきり衰えが見えたこともあったけれども、それは寄る年波のせいもあろうが、主として当時の栄養不足が原因であっ