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おみな
おみな
「作品 第六巻第十二号」1935(昭和10)年12月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,437 字 · 11 页
三十歳の私が、風をひいたりして熱のある折、今でもいちばん悲しい悪夢に見るのがあの時の母の気配だ。姿は見えない。だだっぴろい誰もいない部屋のまんなかに私がいる。母の恐ろしい気配が襖の向う側に煙のようにむれているのが感じられて、私は石になったあげく気が狂れそうな恐怖の中にいる、やりきれない夢なんだ。母は私をひきずり、窖のような物置きの中へ押しこんで錠をおろした。あの真っ暗な物置きの中へ私はなんべん入れられたろうな。闇の中で泣きつづけはしたが、出してくれと頼んだ覚えは殆んどない。ただ口惜しくて泣いたのだ。
あれほど残酷に私一人をいじめぬくためには、よほど重大な原因があったのだろう。私の生れた時は難産で、私が死ぬか、母が死ぬかの騒ぎだったと母の口からよくきいたが、それが原因の一つだろうか。原因はなんでもいいさ。私を大阪の商人に養子にやると母が憎々しげに嘘をついて私をからかったときのこと、私がまにうけて本気に喜んでしまったので、母が流石にまごついた喜劇もある。それから、実は私が継子で、私のほんとの母親は長崎にいると嘘を語って、母は私をからかうことが好きだったが、その話の嘘らしいのが私に甚だ悲しかった。