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かげろうのにっき

かげろうの日記

堀 辰雄

「改造」1937(昭和12)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,890 字 · 60 页

青空文庫

はあの方も宮仕えも休まれて、一しょに籠って入らしったっけが――」などと考え続けながら、供人もわずか三人ばかり連れたきりで、はるばるとその山路を辿って往った。

夕方、漸っと或淋しい山寺に着いた。まず、僧坊に落ちついて、あたりを眺めると、前方には籬が結われてあり、そこいら一めんに見知らない夏草が茂っていたが、そんな中にぽつりぽつり竜胆がもう大かた花も散ったまま立ちまじっているのが佗びしげに私の目に止まった。

湯などに入ってそれから御堂にと思っているところへ、里の方から人が駈けつけて来たようなけはいであった。留守居の者の文を急いで持ってきたのだった。読んで見ると、私の出かけた跡にすぐ殿からお使いの者が見えて私を引き止めるようにと云いつかって参った由、留守居の者が私の出立の模様やそれから日頃の有様などを精しく話して聞かせると、その男までつい貰い泣きをし、「ともかくもその事を殿に早くお知らせ申しましょう」と急いで帰った由、――やがてそちらへ殿が御自身で御迎えに往かれる事になりそうですからその御用意をなさいませなどと細々と書いてきた。あれほど此処へ来ている事をあの方にはお知らせしないようにと固く言い置いてきたものを、あの人達ったら何んの考えもなしに、その事ばかりでなく、おまけに有ること無いことまで大げさに話して聞か