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からたち

からたち

宮本 百合子

「文芸春秋」1939(昭和14)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,987 字 · 4 页

青空文庫

母は外国にいる父へやるために、細筆で、雁皮の綴じたのに手紙を書いている。私は眠いような、ランプが大変明るくていい気持のような工合でぼんやりテーブルに顎をのっけていたら、急に、高村さんの方で泥棒! 泥棒! と叫ぶ男の声がした。すぐ、バリバリと垣根のやぶれる音がした。母が突嗟に立って、早く雨戸をおしめ、抑えつけた緊張した声で云うなり、戸袋のところへ走って行った。私は、戸袋から母がくり出す雨戸を出来るだけ早く馳けて押した。母は台所の方へ行って何か指図をしていたが、そのときのは、となりの家の門の植込のところで捕えられた。桑田さんの書生さんが、あやうく斬られかかったというような話を、こわさで息を弾ませつつ傍できいていた。

次のときは、もうそれから何年も経って、裏のからたち垣は忍返しのついたトタン塀になっていた。そのときは誰も知らず、しかも用箪笥が裏の茶の木の横までかつぎ出してあった。なかのものがその辺にとりちらされ、鼈甲のしんに珊瑚の入った花の簪が早朝の黒い土に落ちて、濡れていた。

一番終りのときは、弟二人が大きくなっていた。上の弟が夜あけに不図目をあけたら、足許の戸棚のところに何か黒いものが見えたので、何の気なしに起きかえったらそれは人間の姿で、懐に手を入れ一種威嚇の勢を示した。