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かんかんむし

かんかん虫

有島 武郎

「白樺」1910(明治43)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,483 字 · 23 页

青空文庫

偶にゃ大層も無え。お袋に土産なんぞ持って来やあがる。イフヒムといがみ合った様な噂もちょくちょく聞くから、貢ぐのは野郎じゃ無くって、これはてっきり外に出来たなとそう思ったんだ。そんなあんばいで半年も経った頃、藪から棒に会計のグリゴリー・ペトニコフが人を入れて、カチヤを囲いたい、話に乗ってくれと斯うだ。

之れで読めた、読めは読めたが、思わく違いに当惑いた。全くまごつくじゃ無えか。

虫の娘を人間が欲しいと云って来やがったんだ。

じりじりと板挾みにする様に照り付けて居た暑さがひるみそめて、何処を逃れて来たのか、涼しい風がシャツの汗ばんだ処々を撫でて通った。

其の晩だ、寝ずに考えたってえのは。

己れが考えたなんちゃ可笑しかろう。

可笑しくば神様ってえのを笑いねえ。考えの無え筈の虫でも考える時があるんだ。何を考えたってお前、己ら手合いは人間様の様に智慧がありあまんじゃ無えから、けちな事にも頭を痛めるんだ。話がよ、何うしてくれようと思ったんだ。娘の奴をイフヒムの前に突っ放して、勝手にしろと云ってくれようか。それともカチヤを餌に、人間の食うものも食わ無えで溜めた黄色い奴を、思うざま剥奪くってくれようか。