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かんかんむし
かんかん虫
有島 武郎
「白樺」1910(明治43)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,483 字 · 23 页
、眼が霞み始めたのかわからなくなる。
ヤコフ・イリイッチはそうしたままで暫く黙って居たが、内部からの或る力の圧迫にでも促された様に、急に「うん、そうだ」と独言を云って、又其の奇怪な流暢な口辞を振い始めた。
処が世の中は芝居で固めてあるんだ。右の手で金を出すてえと、屹度左の手は物を盗ねて居やあがる。両手で金を出すてえ奴は居無え、両手で物を盗ねる奴も居無えや。余っ程こんがらかって出来て居やあがる。神様って獣は――獣だろうじゃ無えか。人じゃ無えって云うんだから、まさか己れっち見てえな虫でもあるめえ、全くだ。
何、此の間スタニスラフの尼寺から二人尼っちょが来たんだ。野郎が有難い事を云ったってかんかん虫手合いは鼾をかくばかりで全然補足になら無えってんで、工場長開けた事を思いつきやがった、女ならよかろうてんだとよ。
二人来やがった。例の御説教だ集まれてんで、三号の倉庫に狼が羊の檻の中に逐い込まれた様だった。其の中に小羊が二匹来やがった。一人は金縁の眼鏡が鼻の上で光らあ。狼の野郎共は何んの事はねえ、舌なめずりをして喉をぐびつかせたのよ。其の一人が、神様は獣だ……何ね、獣だとは云わ無えさ、云わ無えが人じゃ無えと云ったんだ。