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くろがねてんぐ
くろがね天狗
海野 十三
「逓信協会雑誌」1936(昭和11)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,616 字 · 18 页
くろがね天狗
くろがね天狗!
そう呼ばれるようになった稀代の殺人鬼は、その後も臆面もなく、毎夜のように江戸のあちらこちらに出没した。
切りかけて、いまだ太刀を引いて逃げおおせた者がなかった。というのは、切りかけたが最後、印判で捺したように天狗のために切り捨てられるのであった。
「手前手練の早業にてサッと切り込んだので厶るが……」と運よく腕一本を失って助かった被害者が病床で述懐した。
「確かに手応えはあったが、ガーンという音と共に、太刀持つ拙者の手がピーンと痺れて厶る。黒装束の下に、南蛮鉄の一枚肋の鎧を着込んでいたようで厶る。御師範といえども、所詮あれでは切れませぬ」
いよいよ本物のくろがね天狗だとの評判が高くなった。
遂に、種ヶ島の短銃を担ぎだすもの、それから御上の特別のおゆるしを得て、鉄砲組で攻めもした。
ドドーン。ドドーン。
くろがね天狗めがけて、粉微塵になれよとばかり射かけた。さてその結果はというと、くろがね天狗は二、三歩たじろぎはするが、すぐ立直って、どこを風が吹くという様子でノソノソと街上を歩いてゆくのであった。そうなると太刀も銃も効き目のないことでは同じことだった。