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けしのはたけ

けしの圃

小川 未明

「赤い鳥」1920(大正9)年7月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 5,337 字 · 11 页

青空文庫

「三百八十六。」と、小太郎は石を数えて、また笛を吹き鳴らしました。その音色は、細く、悲しく、夜のあたりに響いたのです。響いたかと思うと、はかなく、跡なく消えてゆきました。そのときだんだん人影は、こちらに近づきました。小太郎は、だれか、自分をしかるのではなかろうかと思いました。けれどその影は、穏やかに動いて、そんなけはいもなく、なんとなく笛の音を聞いては、こちらを遠くから、透かして見ているようでありました。

だんだんその影が近づきますと、それは女の影であることがわかりました。美しい女が、髪を垂れて、月の光を浴びてたたずみながら、ぼんやりとこちらを見つめているようすでありました。小太郎はもしやこの女の人が、自分のほんとうのお母さんではなかろうかと思いました。そして、占い者のおばあさんが、今夜、おまえはほんとうのお母さんにあえるといったことを思い出して、なんとなく小太郎の胸は躍ったのであります。

小太郎は、躍る胸を心で押さえながら、また石を数えて、「三百八十九。」といって、笛を鳴らしました。

このとき、美しい女は、けしの咲いている圃の中を走って小太郎に近づきました。