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こがらし
こがらし
岩本 素白
――南駅余情――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,845 字 · 6 页
私はその物語を読んで、ふと少年の日に出会った此の耶蘇教の葬儀を思出した。その古い物語を読んだのは、深く基督教の匂いを湛えた或る中学校を終える頃であったが、その頃でもまだ/\東京のこがらしは烈しいものであった。それから私が其の中学を終えて更に上の学校へはいったのは、明治時代後期の初めである。この文章の中で、初期、中期、後期などというのは、単に明治時代を三分してそう呼んで居るのである。
さて上の学校にはいってから、私の組には三十人ばかりの学生が居た。それが妙なことに、其の中の五人までが生え抜きの東京生れの学生であった。其の時こそ下谷、本郷、四谷、牛込、麻布という土地に住んで、大方が山の手組であったが、家の系統を聞くと、総てずっと古くから此の都会に住んで居る者であった。皆家庭から通って居たので、はめをはずした怠け方をする者はなかったが、それでも時々は妙な理由をつけては早帰りをした。可笑しいのは、こがらしが吹いて空が暗く物わびしい午後などになると、きまって誰か、僕はもう帰ろう、と言い出す者があった。和服の懐へ無精らしく入れて居た手を出して荷物を包み出すと、又一人が、こんな日に火事でも始まっちゃ堪らない、と巫山戯たように言い出す。