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さるかにかっせんとももたろう
さるかに合戦と桃太郎
寺田 寅彦
「文芸春秋」1933(昭和8)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,885 字 · 6 页
こんなくだらぬことを赤白両派に分かれて両方で言い合っていれば、秋の夜長にも話の種は尽きそうもない。
手ぬぐい一筋でも箸一本でも物は使いよう次第で人を殺すこともできれば人を助けることもできるのは言うまでもないことである。
おとぎ話というものは、だいたいにおいて人間世界の事実とその方則とを特殊な譬喩の形式によって表現したものである。さるやかにが出て来たりまた栗のいがや搗臼のようなものまでも出て来るが、それらは実はみんなやはりそういう仮面をかぶった人間の役者の仮装であって、そうしてそれらの仮装人物相互の間に起こるいろいろな事件や葛藤も実はほんの少しばかりちがった形で日常にわれわれの周囲のどこかに起こっていることなのである。その事が善いとか悪いとかいう批判を超越して実際にこの世の中に起こっている事実なのである。
握り飯と柿の種の交換といったような事がらでも毎日われわれの行なっていることである。月謝を払って学校へ行くのでも、保険にはいるのでもそうである。お寺へ金を納めて後生を願うのでもそうであり、泥棒の親分が子分を遊ばせて食わせているのでもそうである。それが善い悪いは別としてこの世の事実なのである。