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しいたげられたてんさい

しいたげられた天才

小川 未明

「白象 第1冊」1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,087 字 · 9 页

青空文庫

先生からの話とあって、祖父は、わけもなく賛成したのです。

いよいよ、門出の日がきました。彼は、停車場への道を急ぎつつ、ふり返って、一日として見なかったことのない、山々をながめました。雲が出ていて、剣ガ嶺だけが、隠れていました。

彼は、日ごろ敬慕する山だけに、姿が見えなかったけれど、別れを惜しむよう、頭を下げました。待つ間もなく、汽車がきたので、意気込んで、それへ乗りました。

「これが、東京へいくのだと、もっといいけれどなあ。」と、思いました。

なぜなら、彼は大きな都会ほど、文化が発達し、芸術が盛んであり、それによって自分を成長させることができると考えたからです。

わずか一時間足らずで、汽車は目的地へ着きました。N町までは、そんな近い距離でしかありませんでした。

だが、そこには女学校あり、中学校あり、また、専門学校があったから、むろん、喫茶店や映画館などもありました。しかも、彼のいく楽譜店は、この町でも、いちばん人通りの多い、にぎやかなところでした。

店は、想像したほど大きくなかったが、各種の蓄音機や、新型の電蓄がならべてあり、レコードは、終日回転していました。