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たちあなひめ

たちあな姫

菊池 寛

「太陽」1919(大正8)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,540 字 · 21 页

青空文庫

こうした惨酷な無残な事が、人類の世界に行われたと云うことを、口にすることさえ、不快で堪らなく思いました。私は、なまじっか、こうした事実を妻に話して、彼の女の心持を傷つけることが、不親切のように思われましたので、その夕刊をむしゃくしゃに揉んで、傍の溝の中に何気ないように捨ててしまいました。

が、新聞は捨ててしまっても、その記事の活字の一字々々迄が、頭の中に刻み込まれたように明瞭に浮んで来るのです。自分の実生活とは、何等の関係がないにも拘わらず、私はその頃に之程心を刺戟されたことはありませんでした。自分が、今迄信じて居た人間性の制限が、――どんな悪人でも之以上の事は、為し得まいと思われる人間性の制限が、無残に破られた為かも知れません。人間の不幸の極限、どんな事があってもそれ以上の不幸が、世界に存在はすまいと思われる不幸の極限が、之等の人々に依って撤廃された為かも分りません。仏のルイ十六世夫妻の死、英のチャールス二世の最期なども悲惨と云えば悲惨でしょうが、そこに悲劇的な美しさが、感ぜられないことはありません。が、露廃帝一族の最期には、あさましい現実があるばかりです。