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たちあなひめ
たちあな姫
菊池 寛
「太陽」1919(大正8)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,540 字 · 21 页
が、電話をかける気にはなりましたものの、不当に呼び出された事に依って、可なり焦々して居ました。電話と云っても、その近所では半町ばかり行ったすし屋にあるばかりでしたが、そのすし屋とも僅かな顏馴染しかありませんでした。僅かな顔馴染で、電話を借りることは、一寸不快でしたが、それでも七八町もある自働電話へ行くのは、どう考えても業腹なので、私はやっぱりすし屋で借りる事にしました。亭主や女房などは、私の顔を、ジロ/\見て居ましたが、幸い出前持の小僧が、私の顔を覚えて居ましたので、割合気持よく電話を借りることが出来ました。が、私の心持は、休息に入ろうとするところを、ムザ/\と呼び出された為に、可なり平かでありませんでした。交換手に番号を云ってからも、仲々先方で出なかったので、私は益々いらいらして、いつも電話で聞き馴れた社の交換台の子供の声がすると、私はいきなり、
「何うして、もっと早く出ないのだ。」と、思わず険しい声で怒鳴り付けました。私の声を、ちゃんと知って居る子供は、ドギマギしたようでしたが、
「七番へですか。」と、気を利かして訊ねました。七番と云うのは、社内電話で編輯の番号でした。