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なよたけ
なよたけ
加藤 道夫
「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页
手前は実はちょうど、家内と一緒になる積りでおりましたもので、それから間もなく瓜生の山へ帰ってしまいました。そう云うわけで、その後のことは少しも存じませんでしたが、そうこうする内に、今度は文麻呂様御自身がすっかりその娘の恋の虜になってしまわれたらしいのです。烈しい「恋」に気も狂わんばかりになられたとか、これは人から聞いた噂でございました。手前、そう云う噂をさるところから、ふと、耳にしましたもので、何だかひどく心配になり、早速都へ舞い戻って、あの姉小路のお宅へ伺ってみたのです。……ところが、どうでしょう! いらっしゃいません! お家は空っぽです! さあ、驚きまして、手前、その晩は夜通しあっちへ行ったりこっちへ行ったりして文麻呂様をお探し申しました。……ようやく、あれはもう東の白む暁方頃でございましたろうか、……旦那様、手前、文麻呂様があの鹿ヶ谷にあるお母上様の御墓所の近くに、死んだようになって倒れていらっしゃるのを見つけたのでございます。すっかり旅姿に身を整えられて、気を失っていらっしゃいました。
綾麻呂 どうしたと云うのだろう?
衛門 どうしたと云うのでございましょうか、手前にも皆目分らないのでございます。