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なよたけ
なよたけ
加藤 道夫
「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页
ところがつい最近のことですが、風の便りか山ほととぎす。……お坊ちゃま、実はその娘がまだ手前の帰って来る日をたった独りで待っていると云う話をふと、耳に致しましたのです。それを聞きました時には、ちょうど、今度のお父上の御栄転騒ぎで、都のお勤めからは手前もいよいよ身を引潮の漁り歌と云うわけで、……何となくすずろな憂身をやつしておりました最中だったもんで、何と申しますか、……人里離れた生れ故郷の瓜生の里が無性にこう……懐しくなって参りましてな。
文麻呂 ふーん? そうだったのかい。……いや、そう云うことなら衛門、そりゃ僕もとてもいいと思うよ。僕も大賛成だ。……故郷の山の中で一生を契り合ったひとと二人っきりで瓜を作る。……いいな。羨しい生活だ。幸福な余生だ。衛門、……こんな汚れ多い都会の生活はもうお前のように正直な男には用のないものだよ。大切なのは孤独と云うことだ。真剣に生きると云うことだ。お婆さんもさぞ悦ぶことだろう。
瓜生ノ衛門 お婆さん?
文麻呂 や、こりゃ失礼。……だって、衛門。そりゃあもうだいぶお婆さんだろうじゃないか? 四十年も前に………
瓜生ノ衛門 (そう云われて、ふと、今更のように四十年の経過を思い起し)ああ、……さようでございましたな。