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ひとごろし

ひとごろし

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」1964(昭和39)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,607 字 · 45 页

青空文庫

とひとくちに呼べるのは、まず福井の松平氏だと思うし、たとえそうでないにしても、話の内容にはさして関係がないから、ここでは福井藩ということにしておきたい。「偏耳録」によると、双子家は永代御堀支配という役で、家禄は百八十石三十五人扶持だとある。城の内濠外濠の水量を監視したり、泥を浚ったり、石垣の崩れを修理したりするものらしい。のちにこれらは普請奉行の管轄に移されたが、双子家の永代御堀支配という役はそのまま据え置きになった。

要するに何十年かまえ、双子家は名目だけの堀支配で、実際には無役になってしまったのだ。そして、誰も気がつかなかったのか、それとも「永代」という文字に意味があったのか、六兵衛の代になっても、役目だけで実務なしという状態が続いていた。――この出来事が起こったとき彼は二十六歳、妹のかねは二十一歳であった。父母はすでに亡くなり、僅かな男女の雇人がいるだけで、兄妹はひっそりとくらしていた。六兵衛も独身、妹のかねも未婚。親族や知友もあったのだろうが、兄にも妹にも、縁談をもちこむような人はいなかった。筆者であるわたくしには、このままの兄妹を眺めているほうが好ましい。