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ひとごろし

ひとごろし

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」1964(昭和39)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,607 字 · 45 页

青空文庫

おようは鼻柱に皺をよせた、「ですからあたし、自分で名を選びましたの、初めに付けたのがおゆみ、それも気にいらなくって次ははな、それからせき、去年まではさよっていってましたの」

「そしておようさんですか」

「昔のお友達に同じ名の、しとやかで温和しい人がいたんです」

「しとやかで温和しいとね」

「いやだわ」おようは赤くなった、「そういうお友達がいたって云っただけですのよ」

その他もろもろのことで、二人の話はしだいにやわらかく、親密になっていったが、六兵衛がそんなことで役目を忘れた、などとは思わないでいただきたい。現に富山城下へ着いたときのことだが、昂軒が宿屋へはいろうとするのを見て、当番だった六兵衛が、例のとおり喚きだし、宿の前はこわいもの見たさの群集が、遠巻きに集まって来た。すると、町方与力とみえる中年の侍が、同心らしい二人の男をつれてあらわれ、六兵衛の前に立ちはだかった。

「ここは松平淡路守さま十万石の御城下である」とその中年の侍が云った、「かような時刻に町なかで、ひとごろしなどと叫びたて、往来の者を威し騒ぎを起こすとは不届きなやつだ、役所まで同行しろ」

越前の言葉も訛りがひどい。