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ひとごろし
ひとごろし
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1964(昭和39)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,607 字 · 45 页
加納は即死、御帰城とともに討手のこと仰せ出さる。
仁藤昂軒は剣術と半槍の名人で、新規に三百石で召し出され、家中の者に稽古をつけていた。六尺一寸という逞しい躰躯に、眼も口も鼻も大きかったらしい。特に鼻が目立っていたのだろうか、若侍たちはかげで「鼻」という渾名で呼んでいた。――狩場でどんな争論があったのかはわからない、昂軒はちょっと酒癖が悪く、暇さえあれば酒を飲むし、酔えばきまって乱暴をする。剣術と半槍の腕は紛れもなく第一級であり、稽古のつけかたもきびしくはあるが本筋だった。彼は三年まえ、江戸で藩公にみいだされ、二百石十人扶持で国許へ来たが、三十一歳でまだ独身だったし、女に手を出すようなことはなかった。
――おれの女房は酒だ。
昂軒はつねにそう云っていたし、よそ者には心をゆるさない土地のならわしで、縁談をもちだす者もいなかった。お抱え武芸者として尊敬はされるが、人間どうしの愛情や劬りには触れることができない。それが「藩公にみいだされた」という誇りとかちあって、しだいに酒癖が悪くなったようであった。
狩場で斬られた加納平兵衛は、お側去らずといわれた小姓で、親きょうだいは江戸屋敷にいた。