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ひとりすもう

ひとりすまう

織田 作之助

「海風 第三号」1938(昭和13)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,706 字 · 40 页

青空文庫

(――そう言って、彼はにやりと微笑した。彼が心を惹かれる女は例外無しに背が高くすらっとしている。黒っぽい着物が似合うのは、すらっとした女である。すくっと立っている、と言った以上、恐らく、背が高かったのであろう。この彼の好みを良く知っている筆者に照れたので、彼は思わず微笑したのだろうと思われる)

その女は今にも波に吸い込まれそうに見えた。そう見えたのは、恐らくその女が自殺しかけていると直感した為だったろう。いや、そう見えたから、自殺すると考えたのかも知れない。とにかく、ぼくは夢中でその女の方へ走り出した。自殺を防ごうとする気持もあったが、同時に又、その時のぼくの平衡を失った孤独な気持が、何か人恋しさの心で、ぼくを走らせたのであろう。走り出して失敗った、と思った。病気の事が頭に浮んだのだ。勿論走ったり出来る身体ではなかった。少し坂を登っても、咳にむせび、息苦しくハアハアと呼吸しなければならなかった程だから。失敗った、と思ったが、一気に走ってしまった。女の傍まで来た時、急に激しい咳が起った。胸の中がガラガラ鳴った。ぼくは蹲った。生温るいものがこみ上って来たかと思うと、ドロッと口の中に咳出された。