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まちがい
まちがい
宮本 百合子
「新風土」1939(昭和14)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,518 字 · 3 页
両方から、おや、と云い、ここで会おうとは思わなかったでしょう、と云った。それから二人でおばあさんにお辞儀をしてそこを出て、古本屋によったりしてバスまでぶらぶら歩きながら、私はふっと夜の電話の件を思い出して話した。すると栄さんはそういうときの癖で、一寸足を止めるようにして片方の手のひらをひろげ空をうつような恰好をしながら、在りますよ、ホラ、お寺へ出る迄に蕎麦屋があったでしょう、と私よりは永く住っていたその界隈を説明した。あすこの右側だったかでそういう表札を見かけたことがありますよ。でも、栄さんまでいるとはおどろいたわねえ。一体その栄さんて、どんな栄さんなんだろ、と栄さんが云うにつれて、私たちは思わず大きな体を折りまげてふき出した。どっちもまん丸な私たち二人には、どんな栄さんなんだろと云った途端、どんなことしても自分たちより大きい栄さんがあろうとは思えず、二人ながら何となく、それは小さい栄さんとうたの文句のような調子で感じ、それが又互に通じあったところに独特なおかしさがあり、歩きながらも猶笑えるのであった。
〔一九三九年十二月〕