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みちのく
みちのく
岡本 かの子
「雄弁」1938(昭和13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,136 字 · 13 页
この心理がお蘭には自分ながらはっきり判らなかった。お蘭の玉の緒を、いつあの白痴が曳いて行ったか、自分が婿を貰い、世の常の女の定道に入るとすれば、この世のどこかの隅であの白痴が潰え崩れてしまうような傷ましさを、お蘭の心がしきりに感ずるのをどうしようもなかった。
北海の浪の吼ゆる日、お蘭は、四郎が今は北海道までさすらって興行の雑役に追い使われているということを聞いた。
いつか婚期を失ってしまったお蘭は自分自身を諦め切っている気持に伴って、もはや四郎を生ける人としては期待しなくなった。
私はこの話を昼も杜鵑の鳴く青葉の山へ行っても、晩の歓迎会の席でも、また宿屋へ帰っても古いことを知ってそうな年寄りを見つけると、訊ねて聞き取ったのである。歓迎会で会った老婦人の一人は言った。
「お蘭さんは、まだ生きているはずでございます。××蘭子と言うのです。何なら尋ねてご覧遊ばせ。F――町はちょうど講演にお廻りになる町でもこざいましょう」
私が尋ねるまでもなく私がF――町へ入ると、停車場へ出迎えた婦人連の中にお蘭を見出した。白髪の上品な老婦人で耳もかなり遠いらしく腰も曲っている。