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みちのき
みちの記
「東京新報」1890(明治23)年8月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,251 字 · 15 页
またそれがこの地のさだめかという代りに「それがこの鉱泉の憲法か」などいう癖あり。ある時はわが大学に在りしことを聞知りてか、学士博士などいう人々三文の価なしということしたり顔に弁じぬ。さすがにことわりなきにもあらねど、これにてわれを傷けんとおもうは抑迷ならずや。おりおり詩歌など吟ずるを聞くに皆訛れり。おもうにヰルヘルム、ハウフが文に見えたる物学びし猿はかくこそありけめ。唯彼猿はそのむかしを忘れずして、猶亜米利加の山に栖める妻の許へふみおくりしなどいと殊勝に見ゆる節もありしが、この男はおなじ郷の人をも夷の如くいいなして嘲るぞかたはら痛き。少女の挽物細工など籠に入れて売りに来るあり。このお辰まだ十二三なれば、われに百円づつみ抛出さする憂もなからん。
二十二日。雨。目の前なる山の頂白雲につつまれたり。炉に居寄りてふみ読みなどす。東京の新聞やあると求むるに、二日前の朝野新聞と東京公論とありき。ここにも小説は家ごとに読めり。借りてみるに南翠外史の作、涙香小史の翻訳などなり。
二十三日、家のあるじに伴われて、牛の牢という渓間にゆく。げに此流には魚栖まずというもことわりなり。