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もののかげ

ものの影

豊島 与志雄

「心」1952(昭和27)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,794 字 · 18 页

青空文庫

」

「それが、問題です。まあ、自分で死のうと思っていたのに、気後れがして、他人から手伝って貰って死んだ、というところでしょうか。」

彦一は平然と、多少皮肉な微笑さえ浮べて、自分の見解を披瀝するのだった。

あの少年は、少しく低能でそして浪費癖があったという。だいたい、低脳な者は大食いだし、随って浪費癖はつきものだ。彼もまた、店の中華ソバばかりでは食い足りなくて、金を持ち出しては買い食いをする。その揚句、農村へ追いやられる話まで起って、これが大打撃となった。農村の労働と、そして粗食を、彼は知ってた筈だ。それからまだ、新聞記者が探り出さない事柄もあったに違いない。伯父夫婦も私生活については余り語りたがらなかったろう。とにかく、いろいろな原因が重って少年は死ぬ気になった。

なにか衝撃を受けて、一時にかっと逆せ上り、やけくそに自殺する、そんなんじゃない。病人が次第に衰弱してゆくように、気力がじわじわ衰えて、いつしか死ぬ気になった。これが重大な点だ。立ち枯れする樹木と同じだ。こんな奴は、自殺しなくとも、どうせ死ぬ。

あの一本松の沼のほとりに、彼は子供たちに交って、魚釣りなどにも出かけたに違いない。