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わがつまのき
わが妻の記
伊丹 万作
「りべらる」1946(昭和21)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,719 字 · 8 页
昭和十三年に私が発病してからは彼女の御難時代で、ことに現在では当時の半分しか収入がないうえに、物価が百倍にもなつたため貯金を費い果し、保険を解約して掛金を取りもどしたりしたが、それもほとんどなくなつた。昨年の秋からは、妻にも明らかに栄養失調の徴候が現われ始めた。要するに、現在は妻にとつて結婚以来もつとも苦難の激しい時である。
育児。確かに熱心ではある。しかし、女性の通有性として偏執的な傾向が強く、困ることも多い。勉強などではとかく子供をいじめすぎる。もつともこれはどこの母親も同じらしい。去年の春、子供が潁才教育の試験を受けたときなどは心痛のあまり病人のようになつてしまつたのには驚いた。どうも母親の愛情は父親の愛とは本質的に違うようだ。食糧事情が窮迫してからは、ほかからどんなに説教しても自分が食わないで子供に食わせる。そして結局からだを壊してしまう。理窟ではどうにもならない。
裁縫。きらいである。そのかわり編物は好きらしい。それにミシンがあるので子供のものだけは家で片づいてゆくが、大人のものはよそへ出す。それでいて裁縫がへたではない。一度妻の縫つたものを着ると、他で縫わせたものはとても着られないくらいだ。