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わがちち
わが父
宮本 百合子
「中央公論」1936(昭和11)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,314 字 · 19 页
父と私との情愛が、独特な過程をもっていて、理窟ぬきの、黙契的な然し非常に実践的な性質を持つようになったことには、私たちの母であった人の性格が大きい関係を持っていたと考えられる。
母は情熱的な気質で、所謂文学的で多くの美点を持っていたが、子供達に対する愛情の深さも、或る時は却ってその尊ぶべき感情の自意識の方がより強力に母の実行を打ちまかすことがあった。私はそういう母の愛についての理窟には困った。父もまた良人又は父親として、そういう点の負担を感じる機会が少くなかったであろうと思う。父と私とが永い変化に富んだ親子の生涯の間に、殆ど一遍も理窟っぽい話をし合ったことのないのは興味あることだったと思う。
父は明治元年に米沢で生れた。十六の年初めて英語の本というものを手にとったが、絵のところが出て来て始めてそれまで其の本を逆さまにして見ていたことが分った。俺の子供の時分はひどいものだった、そんな話の出たこともあった。大学生時代、うちの経済が苦しくて外套は祖父のお古を着ていたが一冬着ると既にいい加減参っている裾が忽ちボロボロになる。すると、おばあさんがそこだけ切って縫いちぢめて、次の冬また着せる。